今月の風景

2003年 8月

〜 深い深い森の中で 〜

カヤノ平

 

木島平村についたときは既に午後3時を回っていた。村役場の近くのガソリンスタンドで給油。スタンドのおじさんにカヤノ平へ行くと告げると、今は熊が出るよ。一人で入っていくと襲われちゃうよ!と脅かされる。

7月初めの梅雨の谷間で、土曜日とはいえ観光客も少なそう。本州最深の山の中だし、夜は恐いなぁ。テントなんか熊に襲われたらひとたまりもない。などと、少しびびる。

木島平側から奥志賀へ登るのは初めてだったが、国道403号線から林道への分岐には立派なカヤノ平方面という道路標識が有り、迷うことは無かった。

林道は道幅こそ1.5車線位で狭いが、綺麗に舗装されていて走りにくくはない。さすがに標高千メートル近く登っていかなければならないので、右に左に延々とカーブが続く。

かなりイイペースで走っているのだが、他の車に追いつくことも無く、追いつかれることも無い。人の気配が無く、異世界にでもトリップしてしまったかなぁなどと心細く思い始めた頃、明るいブナ林に突入。立派なブナの姿に関心しながら走っていると、パッと視界が開けた。

緑の平原が明るく輝いている。カヤノ平だ。

管理事務所で千円くらいだったと思うがキャンプ料金を支払う。どこでもイイよといわれて、あまりの広さにとまどうが、事務所からかなり離れた所にテントを張る。トイレには行く気が起きない程遠いが、静かな森の中のキャンプを集団キャンパーに邪魔されたくないしね。
(夏休み等は人出が異常に多くて混雑するそうなので注意。やはり人気観光地はオフシーズンの土日や平日を狙いたい)
テントを張り終わったら、いよいよカヤノ平のブナ林に入っていく。この辺りは中部地方最大のブナ林であり、自然観察林として遊歩道が幾つか整備されていて、極相林としてのブナの森の姿も観察する事が出来る。ガイドマップは管理事務所でもらえるし、案内標識も立っているので安心して森の中に入っていける。

時刻は午後4時。森の中は夕方のおもむきだ。森の中を歩いていて暗くなったらシャレにならないどころか、ガソリン屋さんの言うとおり熊に会ってしまうかも。所用片道40分で、見所の多そうな北ドブ湿原を目指す事にする。

遊歩道はごく軽い登りで歩きやすい。道幅も広く、人通りが多いことを伺わせる。最初の十分くらいは森の素晴らしさに感動しながら歩いていたのだが、どうも様子がおかしい。二十分たっても、三十分たっても人に会わないのだ。カヤノ平〜北ドブ湿原にかけての遊歩道は、森の中の遊歩道としては超メジャールートのハズだが・・・・・・。

どうやらこの森には私一人しかいないらしい。こんな所でケガをして動けなくなったら、朝まで助けを呼べない、ましてや熊に会ったら・・・・。引き返そうか・・・・・。

不安一杯になりながら、迫り来る夕闇に怯えながら、急いで、でも絶対にケガしないように注意しながら、早歩きで北ドブ湿原にやってきた。・・・・・やはり、誰もいない。

誰もいない湿原の、木道の上を歩いていく。ここから徒歩四十分以内には誰もいないのだ。が・・・・・・!

傾きかかけた日の光を浴びて、ワタスゲが白くキラキラ輝いている。あまりに幻想的な光景に息をのむ。今、この時間に限って言えば、日本一きれいな風景ではないだろうか。

 

この幻想的な風景に、くたびれた旅人が一人だけ。あまりに勿体ないので、十分この風景を味わうことにする。三十分程ただずんで、日が傾いて来たので湿原を後にした。

それにしても、あの素晴らしい森、素晴らしい湿原に私一人しかいないとは。ドウナッテイルンダロウ。でも旅をしていると結構あるんだよね。絶景の中に一人佇むって。

カヤノ平に戻ってきたら、一旦林道を降りて国道403号線を南下し、温泉に向かう。40分程走った日新乃湯に浸かり、帰りにセブンイレブンに寄って・・・なぜか山の中に有ったのだ。オフシーズンで客は私一人なのだが・・・夜9時頃、キャンプ場に戻る。

深い深い森に囲まれたカヤノ平の夜。テントの中は不思議と安心感が有る。寝袋にくるまると落ちるように眠ってしまった。  

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朝起きてみると霧に包まれていた。これはこれでカヤノ平らしい幻想的な光景だ。あと1日くらいのんびりしていたいところだが、そうも言ってられない。

 

奥志賀林道を通って志賀高原に向かう。森の深い所を通る割に視界が開けていて、いつ通っても気持ちのよい道だ。

ちなみに、カヤノ平からの道と奥志賀林道が交わる交差点は、見通しが悪く、一時停止無視で飛び出してくる車が多い。注意されたし!

志賀高原からは志賀草津道路を使って渋峠に登る。上から見下ろす芳平の風景はいつ見ても見事だ。

渋峠から降りてきたところでいつも迷うのが、草津に降りるか、万座に降りるか。どちらもダイナミックな風景とワインディングに出会える。万座の方は通行料金がいる。景色は草津の方がスケール大きいかな。でも、今回はちょっと濃いめの温泉に浸かりたかったので万座を選択。

やって来たのは万座プリンスホテル。さすがにロビーは立派で貧乏旅行者が入っていくのは申し訳ない感じだが、空いているからイイか。千円払って温泉へ。

日曜昼だというのに、標高2000メートルの絶景の露天ぶろ、泉質も日本トップクラスの濃い硫黄泉が遊んでいる。ドボンとつかって、極楽極楽。高級ホテルの空いている露天風呂がたった千円。昼間の万座プリンスホテル、お勧めです!

いつか二人で泊まりにきたいなぁ。・・・誰と?いないやんけ!
一人さみしくボケとツッコミをしながら、万座をあとにしました。

というわけで、今回はここまで。
次回は絶景の大菩薩峠と、その峠を見ながら走るお気に入りのワインディングをご紹介します。では。

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