今月の風景

2004年3月

楯が崎

紀伊半島を一周する国道42号線は、尾鷲の市街地を過ぎた辺りで一旦内陸に入ってしまう。深い山をトンネルで貫き、トンネルの切れ目からは人を寄せ付けないような深い谷を目にすることが出来る。紀伊半島の山谷の深さを象徴するかのような峠道になってしまうのだ。

もし尾鷲から熊野市まで海沿いを走りたければ国道311号線を使用することになる。複雑なリアス式海岸をトレースする道程はとても長く、険しい。つい数年前までは未開通区間が有ったほどで(全線開通は2001年)、今でも国道311号線を利用する車は極端に少ない。かくいう私も利用したことは無かった。で、今回の旅のテーマの1つが、この国道311号線尾鷲〜熊野市間を通ること。さほど期待しないで行ったのですが・・・。

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尾鷲の市街地を抜けた辺りで左折し、国道311号線に入る。前を走っていた車2台は尾鷲の町外れに在る野球場に消えてしまい、あとはひたすら単独行。すぐにローカル国道とは思えないほど立派で長いトンネルに入るが、前も後ろも車の姿はない。もしかしてこの道は極端に通行量の少ない道なのでは無いか。数qに渡る長い長いトンネルを3本程通過し、期待は確信に変わった。

トンネルを抜けると海に向かって一気に下っていく。海沿いのこぢんまりした漁村を抜けると、あとはリアス式海岸にそってひたすらカーブの連続。南国特有のはっきりした色合いで海と森が迫ってくる。常緑樹の緑はあまりに深く、今は夏だと言われたら信じてしまいそうだ。(訪問は3月初め)

延々と続くカーブをクリアーしていく、と、えっ!鮮烈な風景が目に飛び込んできた。青く透き通った入り江、そそり立つ岩壁。鮮烈な緑。思わずバイクを止め、ガードレールから身を乗り出す。

予想していなかっただけに度肝を抜かれる。素晴らしい景色!こ、これは日本有数の極上ツーリングコースなのでは・・・。

楯ヶ崎の標識の側に駐車場が在り、車が数台止まっていた。どうやら素晴らしい景色の更に先に名勝が在るらしい。森の中の散策もしてみたいし、ちょっと寄り道してみますか。


駐車場は無料のが2カ所ある

バイクから降りて散策するとき困るのが荷物とウエアーの盗難防止。本日の服装はバリバリの真冬装備ですから、そのまま歩いたら汗だくどころの話では済みません。ウエアーのベルトにワイヤー錠を通してバックを覆います。おっ、我ながら結構いい感じに収まりました。Yシャツ一枚になって、さあ出発。

照葉樹の生い茂る遊歩道はとても快適。ヤブツバキ、スダジイ、ホルトノキ、バリバリノキ?ってなんだ?と思ったらちゃんと木の側に説明書きの立て札があった。結構整備されているのだ。そのわりに人が少ない。

歩いていると茂みからガサガサ音がしたり、鳥のさえずりや、カエルの鳴き声?や、いろいろな音が聞こえて来る。豊かな森です。

一旦静かな入り江に出た後、遊歩道は再び森の中に入っていく。

尾根道に出てヤブツバキの群落の中を歩いていく。木に囲まれているから安心感が在るが、ふと道の脇を除いてみると凄い崖!遙か下に海が見える。実は凄いところをあるいているのだった。

おおっ!木の間からなんか凄いものが見えてきましたョ

これが楯ヶ崎か!海の中にそびえる人を拒絶するような柱状節理の高い崖。取り残されてしまったような緑の植物たち。迫力です。

海岸に降りると、そこは千畳敷と呼ばれる広大な岩床だった。しばらく歩き回り、楯ヶ崎の側まで行ってみるが結局人影を見ることはなかった。数百メートルに渡る一枚板の岩の上には私一人だけ。今日は日曜日でここは凄い景勝地なのだが・・・。うーん、勿体ないです。

遊歩道は片道2km弱。往復で1時間半ほど。それだけ歩いて純粋に散策を楽しんでいる人は数名ほどしか会わなかった。あとは釣り人が数名。3月始めとはいえ、素晴らしい森と海と遊歩道を満喫して、贅沢なひとときを過ごせた。

楯ヶ崎を後にし、バイクを西へ走らせる。楯ヶ崎より西の311号線は狭い部分も増えてくる。点在する漁村の中には1車線程しかないところも。311の尾鷲〜熊野の交通量が少ないのはそのせいかもしれない。


初搭載!車載カメラからパチリ

存分にワインディングを楽しんだところで夕暮れが近づいてきた。素敵な自然に素敵な道。満足したので、そろそろ帰ることにしますか。って、これから川崎まで帰るのか・・・。遠い・・・。(東名高速をひた走り、帰宅は深夜でした)

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